日本でなじみの薄いSFのサブジャンルなので、人によって思い描く物が異なりそうです。ブレードランナーは?攻殻機動隊は?マトリックスは?サイバーパンクの定義を議論するには成り立ちを知る必要があります。
語源となったブルース・ベスキのサイバーパンク
初出はBruce Bethkeさんの1983年の小説Cyberpunkとされます。10代のハッカーを描いた作品で、この時点でサイバー(コンピューターやネット)でパンク(反体制)な作品でした。ただし身体改造やディストピア、人工知能、日本感、意識ごとネットに潜る描写はありません。
この事からサイバーパンクの最低限の定義はその名が表すようにサイバーでパンクである事でしょう。ただしこの作品がサイバーパンクというジャンルを発明したわけではないと作者自身が認めており、その栄誉はニューロマンサーにあると書いています。
この作品は作者により英語版が無償公開されています。
外部リンク:Cyberpunk a short story by Bruce Bethke
ジャンルを確立したウィリアム・ギブスンのニューロマンサー
William Gibsonさんの1984年の小説Neuromancerがサイバーパンクというジャンルを確立したとほとんどの人が認めるでしょう。この作品では身体改造や人工知能、日本感(千葉市や忍者が登場)、意識ごとネットに潜る描写があります。今日のサイバーパンクのイメージ、2020年発売のゲームCyberpunk 2077の世界そのものと言えるほどです。
世界観の確立に寄与したブレードランナー
1982年の映画Blade Runnerもサイバーパンクに与えた影響は大きいとされます。1968年の原作小説アンドロイドは電気羊の夢を見るか?ではなく映画の方がそう言われる理由は、映画に関わったデザイナーのシド・ミードさんが作り上げた世界観がサイバーパンクに多大な影響を与えているからです。ノワール、ディストピア、立ち並ぶ摩天楼、空飛ぶ車、日本感、建物内外から小物まで。文字ではなく映像作品、それもリドリー・スコット監督、ハリソン・フォード主演となれば世間に与えた影響は大きいですね。
その影響の大きさからかサイバーパンクものとする意見を度々見ますが、主人公は反体制ではなく体制側、コンピューターやネットで戦わずバリバリの肉弾戦です。サイバーでもパンクでもありません。主人公リック・デッカードより主人公してるロイ・バッティは反体制ではありますが…
サイバーパンクのジャンル確立に寄与した作品
語源となったBruce Bethkeさんがジャンル確立に寄与した作品を挙げています。今日のサイバーパンクのイメージが確立される前の作品も含むので、あくまで寄与した作品です。この中で私が見た事あるのはA Clockwork Orange(時計仕掛けのオレンジ)の映画だけでした。
- The Stars My Destination by Alfred Bester(1956年)
- A Clockwork Orange by Anthony Burgess(1962年)
- Shockwave Rider by John Brunner(1975年)
- Software by Rudy Rucker(1982年)
- Blood Music by Greg Bear(1985年)
- Pretty Boy Crossover by Pat Cadigan(1986年)
- Hardwired by Walter Jon Williams (1986年)
- Vacuum Flowers by Michael Swanwick(1987年)
- Dreams of Flesh and Sand by W. T. Quick(1988年)
日本のサイバーパンクの動向
大友克洋さんの1982年の漫画 AKIRA(1988年に映画化)、士郎正宗さんの1989年の漫画 攻殻機動隊(1995年に映画化)がサイバーパンクの代表とされる場合があります。しかしブレードランナー同様にサイバー要素とパンク要素が揃っていないので違和感があります。攻殻機動隊は反体制になるエピソードもありますが、物語の大半は体制側なので、そういうエピソードがあるからパンクだと言うのは定義を広げすぎな気が。
そんな折、士郎正宗の世界展(世田谷文学館にて2025年8月17日まで)で納得いく士郎正宗先生のお言葉が。以下引用。
小説『ニューロマンサー』との関わりを指摘される事もあるが、僕が『ニューロマンサー』を初めて読んだのは『攻殻機動隊』の第2話を描いていた時期(結構遅いのだ)。
自分としては『ニューロマンサー』ではなく、映画『ブレインストーム』とかの方が印象が近い気がしている。
サイバーパンクブームという言葉だけを後から輸入して表層に貼った感がある。(なぜだ・・・⁉)
当時のニュー・ウェーブやサイバーパンクブームは日本の作家にも影響を与えているはずですが、彼らはサイバーパンクのつもりで描いておらず、周りがブームに乗せるためサイバーパンクのレッテルを貼ったというところでしょうか。
結論:サイバーパンクとは
やはりサイバー(コンピューターやネット)とパンク(反体制)の2つが揃っている事でしょう。この定義だけでも最近の作品に該当するものはほぼ無い気がします。なのでサイバーかパンクのどちらかがあればサイバーパンクと言われがちですね。私は個人的にそれをサイバーパンク(広義)と呼んでいます。
サイバーパンクの定義にブレードランナーやニューロマンサーの描写を求める人もいます。救いの無いノワールものであるべきとか、ニンジュツだかカラテだか、思い描くサイバーパンク像があるようです。私は個人的にそれらをサイバーパンク(狭義)と呼んでいます。